鯖の西京焼きに込めた想い
パチッ…パチパチッ──
強火の遠火でじっくりと火を入れ、皮目が香ばしく焼き上がり、小さく弾ける。
西京味噌がゆるやかに照りをまとい、脂がじんわりとにじみ出す。
ふわり、あたたかい香りが立ちのぼる──。
幼い頃、夕暮れになると、どこからともなく漂ってきた、美味しそうな匂い。
それはきっと、誰かの「おかえり」を待つ気持ちが、湯気になって風に乗ったんだと思う。
今なら分かる。
手間をかけること、それは食べてほしい誰かのことを想ってかける時間。
だって、もし、ただお腹を満たしたいだけなら──そうね、
世界には、すぐに食べられるものが山ほどあるから。
贅沢じゃなくても、「想いを込めて作ること」の味は、きっと忘れられない。
この鯖の西京焼きは、そんな想いがこもった一皿。
レシピ|鯖の西京焼き
鯖の西京焼き(2人分)
材料
• 鯖(半身)… 2切れ(約200g)
• 西京味噌… 80g
• 酒… 大さじ2(30ml)
• みりん… 大さじ2(30ml)
• 砂糖… 小さじ1(5g)
• 塩… 適量
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【下ごしらえ】
美味しさの決め手は、鯖の臭みを丁寧に抜くことから。
──これが、「焦がさずふっくら」に焼き上げるための最初の極意。
1. 塩をふって15分置く
鯖の表面にまんべんなく塩をふり、余分な水分とともに臭みを引き出す。

2. 熱湯をかけて霜降りに
皮目を中心に熱湯を回しかけ、すぐに冷水に取って冷やす。

表面が白くなり、ぬめりと一緒に臭みも落ちる。
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【味噌だれをつくる】
上品な甘さの西京味噌に、酒とみりんでまろやかさを添える。
味が入りすぎないよう“包んで漬ける”のが、第二の極意。
• 西京味噌・酒・みりん・砂糖をよく混ぜる。
• ガーゼやキッチンペーパーで鯖を包んで漬けると、塩辛くなりすぎない。

※ラップの上に味噌を広げ、キッチンペーパー→鯖の順で重ねて包むと扱いやすい。
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【漬け時間と保存】
• 冷蔵庫で一晩(6~12時間)
• 長く漬けすぎると味が濃くなりすぎるため、注意。

※時短する場合は、室温で30分置いてから冷蔵庫で4時間ほどでも十分味が入る。
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【焼き方のコツ】
仕上げは「焦がさず、ふっくらと」。ここが最後の極意。
1. 漬け込んだ味噌をやさしくぬぐい取る(焦げ防止のため)

2. グリルまたはフライパンで中火。
片面4〜5分、裏返して3分が目安。
• フライパンの場合はクッキングシートを敷いて。
• フタをして蒸し焼きにすると、よりふっくら仕上がる。
実食|鯖の西京焼き

扉の前に立った瞬間、ふわりと鼻先をかすめた、香ばしくて甘い匂い。
──鯖の西京焼き。この匂いは……
「今夜は当たりだな……」
思わず、ひとりごとが漏れる。
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食卓につき、箸先でそっと身をくずす。
その瞬間、くずした隙間から、湯気がふわりと立ちのぼる。
西京味噌の甘い香りが、じんわりと鼻先をくすぐってくる。
ひと口、口に運ぶ。
──ん?鯖なのに、まったく臭みがない。
味噌の甘さと塩加減のバランスも絶妙で、ふっくらとした身にじんわり染み込んでる。
丁寧に下ごしらえされてるんだな……
そして、時間かけてゆっくり焼き上げたんだろう。
脂もとろっとして、口の中にやさしく広がる。
皮の香ばしさがまた一口を誘ってくる。
──これを食べられた私は、幸せ者だ。
静かに箸を進めながら、そんなことを思う。
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食べ終えた男はそっと箸を置いた。
……ごちそうさま。
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Alice Tips|失敗しない鯖の西京焼き・三つの極意
1. 臭みを抜く下処理こそ、味の決め手
塩をふって水分を出し、霜降りで血合いや脂をサッと流す。
たったこれだけで、驚くほど臭みがなくなるの。
2. 味噌は“包んで漬ける”が基本
キッチンペーパーやガーゼで鯖を包んでから味噌に漬けて。
味が入りすぎず、ふっくら上品な味わいに仕上がるのよ。
3. 焼くときは“味噌を落として、中火で蒸し焼き”
焦げやすい味噌は、焼く直前にしっかり拭うのが鉄則。
クッキングシート+フタを使ったフライパン蒸し焼きが、香ばしさとジューシーさのベストバランス。
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「料亭の味」を家庭で再現するなら、この三つを守れば大丈夫。
丁寧に仕込んで、ふっくら香る西京焼きを楽しんでね。
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